14日・AM 日付けが変わってから短針が2周したのをきっかけに受話器を取った。一言、来い、と告げれば、電波が運ぶのは悲痛なうめき声。知ったこっちゃない。気にせず通話を終える、渋ってもごねてもどうせ最後には従うのだろうにまったくあいつは学習しない。現に2分後にドアが開くとその向こうには銀の髪。ばたばたと早足で部屋を突っ切り顔からソファへ倒れこんだ。 「勝手に死んでんじゃねぇよ、カス」 「…ガキ…も…っと、解放…て…眠…シャワァ゛ァ゛ァ゛…」 「人語を話せ。…随分楽しい休日だったらしいな?よかったじゃねーか」 「…あ゛ぁほんとにな!最高にステキな誕生日だったぜ畜生!!」 半身を起こし、髪をかき乱してから乱雑にひとつに束ねる姿を見るともなしに眺めつつ、俺もやわになったもんだと自嘲がこみあげる。わかりきってることを問うのは茶番だ。だが、俺は今から自分の手で茶番劇の幕を開けるのだ。 「…どういう風の吹きまわしだ」 「あ?なにが」 「ルッスーリアが言っていた。去年までおまえは誕生日の前後に無理やり仕事入れていたのに今年は何の心境の変化か、と」 「あ゛ー…あぁ、あ…べつに理由とか…いや、くだらねぇんだけど…」 スクアーロは少しうつむく、目をそらす。その反応も予想通りだと言えばこいつは驚くだろうか。こいつはわかりやすくわかりにくい。といって、完全に理解できないわけではない。わかってるか、おまえはずっと俺を見ている。知っている。だが、俺もおまえを見ているのだ。知っていたか? さあ、主役がセリフをつぶやく。 「あの…ときから、よぉ、あんたは止まってるし、髪は伸びてくし、その上誕生日とか年とった証拠じゃねぇかぁ。だから…だけど…今年はもう、あんたいるし。向き合ってみっかと思ってなぁ。…な、祝ってくれよ、ボス。もう一回よお」 問うたのは、恥を捨てて言うなら、大勢に好意を向けられているスクアーロへの嫉妬や独占欲からだった。そしてこいつは身の内の欲を満足させるだけの答えを返した。自覚しちゃいないだろうが、功績に褒美を与えるべく、背に腕を回してキスをひとつ。 さらば、孤独な君。愛しい、哀しい、昨日までの君よ。 君に愛惜のキスを贈り、そして私は明日からの、私に愛される君を祝福とともに出迎えよう。 「Buon Compleanno!」 12日 PM 13日 AM PM 20080313 |