12日・PM











「誕生日だったな」


 唐突にボスが言うからどこの同盟ファミリーの誰だ?政治家とか表の方か?それともプレゼントに偽装して火薬か毒でも…ンな仕事あったっけ…なんて考え込んでしまいました。
「…ハ?誕生…誰の?」
「…さすが魚類の脳だ。てめえの履歴も忘れたか」
「おお、え?あ゛?…俺、の?」
 断っとくと俺だって自分の誕生日、まあ本当のとこはどうなんだかわかったもんじゃねぇけど、いちおうそれくらい覚えてる(そういや明日だった) …覚えてはいるけど、だってボスだぜ。ボスが!俺の!誕生日を!その上なんてこった、あっちから言い出すなんて! 感動もできずに立ちつくす俺を、だけど容赦なくさらなる恐怖が襲う。
「欲しいものはあるか」
 なんですかなんですか俺明日にでも殺されますか。
 ちょっと本気で天命を呪い運命を嘆き覚悟を決めた。そして開き直って、というかヤケになって、言ってみることにした。どうせ死ぬなら、なぁ、せめて最後に!
「えぇ…と、…休暇?」
「そうか」
 ボスの長い指は俺を焼くこともなく俺を殴ることもなく俺の首をしめることもなくナイフをとることもなく銃の引き金をひくこともなくブックエンドにつっこまれてる紙束をかきまわした。角のひとつが少し折れた書類をひとそろいひっぱり出すと紙ばさみを外して一枚抜きとり、仕事にしか使わない時代がかった羽根ペンでさらさらサイン。えっ何、なんだあれ、呪い?呪いの札かなんか?だとしたらすげぇ嫌だな、呪具が常時手の届く場所にある暗殺部隊のボスの机って。
「ほらよ」
 よこされた紙きれを見ても目はつぶれなかったし手足は石にならなかった。なりそうにはなった。
 だってこれ休暇許可の3ヶ月にいっぺんもお目にかかれたらものすごいラッキーなあ、あの。
「Buon Compleanno」
 茫然としてたら鼓膜にとどめの一言がぶち当たって三半規管がぐらりとゆれたもんだから、嗚呼、俺やっぱり近いうちに死ぬのかもしんねぇ。ジーザス!











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