「3秒だけ待とう」


「神にでも何でも祈ればいい」


 ヒバリの得物はトンファーだ。ヒバリはいつも舞うようにきれいに命を奪う。
 正直、どうやったら打撃の一撃で殺せるのかわからないけど、なめらかに見えてもかすめただけで肌を裂くスピードや白い細い手首と黒い鋼がもたらす密度の濃い重い殺気は身をもって知っているので(なにしろ肩に手を置くだけで凶器を突きつけられる日常だ) きっと標的たちは銃弾を撃ちこまれるより深く地獄の底に沈むんだろう。
 だけどヒバリはたまに銃を使って仕事する。イタリアじゃトンファーなんてヒバリの専売特許みたいなもんだから、手を下したやつを特定されたくないときなんかにヒバリは銃を撃つ。それも遠くから狙撃とかそういうのじゃなく、じかに頭か左胸へ銃口を突きつけるんだ。
 そして言う、「3秒だけ待つ」…と。その瞬間のヒバリはひどく無慈悲でこの上なく神々しくて、世界の具現みたいに絶対だ。もしあの黒光りする人殺しの道具を向けられてるのが俺だったら、神なんか思い出しもせずに世界が終わるまでの3秒間、馬鹿みたいに目を開けて突っ立っているだろうと思う。
 なんで3秒待つ、なんて言うのかはわからない。あいつのことだから念のために照準あわせてるだけとか言うんだろうな。
 俺は理由を訊いたことはないしこれから訊くつもりもない。勝手な理由をこじつけて神格化する気もさらさらない。下っ端のやつらにはそんな信奉者とかもけっこう多いらしいけど。
 ただ俺は、その光景が何よりうつくしいと思う。そして、そうやって銃を撃つヒバリの隣で刀を振るい続けられますようにと、がらにもなく神さまに祈ってみたりなんかするんだ。



「なあヒバリ、俺を撃つときがあったらそのときも3秒くれよな」
「何をわけわからないこと言ってるの。咬み殺すよ」
「ヒバリの顔を網膜に焼いて死ぬなんて最高じゃねえ?」
「…ならぼくは鏡でも見ながら死ぬことにしようか」













20070522
山ヒバは原点でした