→ 「うっし」 金メッキのリンゴの最後のひとつを片手に元親は満足げにうなずいた。華やかに飾りつけた元親より少し背が高いくらいのもみの木は本物で、さすが金持ちの家は豪勢だなとほんとうは少し気後れしたりもしたのだが、ともあれすっかりツリーらしい顔をして誇らしそうに輝いている。 リンゴを適当な場所にくくりつけてから空になった飾りの箱を手にキッチンの佐助に声をかけようとして、元親はふと底にはりついた紙片に気づいた。うすい桃色の長方形の、一方の端に穴をあけてこよりを通した小さな和紙は。 「何?呼んだー?」 「あー…や、悪ィ、間違えたー」 返事して、華奢なこよりをつまみあげる。短冊だよな、これ。七夕の夜に笹とセットの天の川宛て片道郵便。なんでこんなとこにまぎれてたんだろ。 「…………」 元親はすこし考え、手近に転がっていたサインペンを短冊へ走らせた。ツリーの、壁に隠れて見えにくい部分でも特に下の方に、そっとこよりを結びつける。 願いを送っても、もちろん今は織姫も彦星も離ればなれで年越し準備の最中だろうが、同じ天界を走るのだ。サンタクロースに拾われることだってあるかもしれない。どうせ世界中の願い事で飽和状態のフィンランドより、季節外れの短冊の方がサンタの目にもとまるだろう。 右の親指の腹で、きゅ、と窓ガラスのくもりをぬぐい、元親は夜空を遠く見る。クリスマスにぴったりのきれいな空だ。サンタもさぞかし飛びやすかろう。 → 悪い、間違えた。返された返事に、そう?とつぶやいて佐助はまた一枚レタスをちぎる。たっぷりと水分を抱えた野菜は小気味よい音を立て裂けてボウルの中に積もっていく。 パーティの準備の前に、料理係、買い出し係、飾りつけ係と割り振ったとき、佐助が料理係になるのはまあ当然のなりゆきだった。料理といってもスナック類はコンビニ、食べ物はファーストフードから買ってくるから作るのは簡単なサラダ程度だけど。トマトをくし形に切りながら、佐助は、毛利とかも来ればよかったのにとぼんやり考える。誘ったけれど断られたのだ。来たらミニスカサンタの衣装着せよう、なんて言い合っていたのを察したのかもしれない。彼なら普通に似合うと思うんだけどな。 トマトとゆで卵を並べ、ふと振り返るとすこししゃがんで飾りを直しているらしい友人がひとり、何のといえばド派手なツリー。…うわっ、何あれ。さてはチカちゃん、持ち寄った飾り全部使ったな。 とはいえ当のもみの木にしてみれば今宵限りの晴れ舞台。あれだけきらきらしく着飾って良くも悪くも注目を集めれば本望っていうものなんだろうな。多分ね。 → 「…………」 政宗はゆっくりまたたいてツリーを見つめる。これは…クリスマスツリーだ。小十郎が昨日、運び込んで立てていった。ついでに言うならここは俺の部屋で、今は勝手にここをクリスマスパーティの会場に決めた元親と佐助と幸村に占領されている。これはさっきまで元親が飾りつけてたツリーだ。 「…何だこりゃ」 ツリーのはずだ。なのになんで短冊。 政宗は実家の弟が同じようにクリスマスツリーに短冊のつもりで願い事を書いた紙をくくりつけていたことを思い出す。ただしその当時、弟は4歳。元親…アンタ4才児と同レベルかよ。 笑ってやろうと紙切れをひっくり返し、けれど書きこまれた願いを目にして、政宗はすこし言葉につまる。 『政宗とかみんなとずっと一緒にいられますように』 …ああまったく、ろくでもない、幼稚な願いだ。それこそ4才児と同レベルだ。 → チキンやポテトのつまった袋をテーブルに置いて、コートを脱ぎながら幸村は部屋を見回した。政宗殿はツリーの前で何やら考え中。元親殿はもう飾り終えられたのだな、向こうで佐助と話している。 ラジオのスイッチを入れるとちょうどクリスマス特集をやっていた。流れ出す曲は、きよしこの夜。 「Hey幸村、聞くならもうちょっと違うのがあるだろ」 「しかし拙者はこれがよいので」 というのはクリスマスってもともとキリストの誕生日だ。日本のそれに宗教色はあまりないけれど、完全になくしたら聖人だって悲しむだろう。 「この歌3番こんなんだったんだな」 「つーか、何この、ポケモンのボール?」 「それはハッピーセットを買うともらえて開けると中にピカチュウが」 「ちょっとそこつまみ食いしないで!おはしあるから!」 幸村は二千年前の聖人に心の中で謝る。ごめんなさい、おれたちはあなたのことをよく知らないけど、あなたの誕生日に便乗して楽しんでいます。慣れない十字を胸の前で切って、メリークリスマス、つぶやいてから、クラッカーのひもが引かれるのに合わせて耳をふさいだ。 20071225 学園です。元親と佐助と毛様は2年、筆頭と幸村は1年生 願い事について学生たちはかく語りき、クリスマス当日編 |