幸村はいつも、佐助はすごいと思っていた。
いろんなことを知っているし、まるで重力なんかないみたいに走る。たとえば指先の置き方ひとつ、目線の動きひとつで別人に見せる術。
どれも幸村にはないものだ。もちろん求められ求めて会得したものが全く違うのはわかっている、わかってはいるが、そこであきらめたら精進にならないというのが幸村の考えだった。今だって捕らえた間者の尋問をして、一刻かかっても何もできなかった。けれど佐助は四半刻もかけずに情報を引き出したのだ。幸村は佐助をつかまえて尋ねてみた。おれもそんなふうにできるようになれるだろうか。
佐助はすこし困った顔をして小首をかしげた。そして片手をひらと振る。
「別にできなくていいんじゃないの? こんなのは俺の仕事だし、旦那に取られたらやることなくなっちゃうよ」
幸村は重ねて言いつのったりしなかった。ただ悲しいような気持ちで、わかった、とつぶやいた。
わかってはいる。自分と佐助は求められているものも、求めるものも違うこと。それについての不満はないし深く考えたこともない、もともと考えることは得意でない。しかし、だからといって何も考えないわけじゃないのだ。少なくとも、たった今ひらりと振られた手の、短く切った爪のあいだに赤黒くこびりついた色が何かだなんて考えるまでもない。
戦いの、組織のそういう部分を、幸村は詳しくは知らなかった。それでも楽しいはずがないのはわかる。佐助にばかりそんな思いをさせたくない、だけどどうすればいいかはわからない。
しょげた様子の幸村に苦笑して、佐助はその頬にそっと手を当てた。けれど幸村が伸ばした手を取って指先を包むと、薄い笑みを消して視線を落とす。そうしてつぶやいた言葉ははたして、幸村に向けたものか、あるいは、自分へか。

「…本当にわからないことなんてそんなにはない、全部やったらわかるんだ。でも、そうしたら、なかったことにはできない…ねえ旦那、あなたはどうする? どうしたいの?」






「…話が難しくてよくわからぬぞ!」

「あーもーほんと旦那大好き」













20070614