連日降り続いてようやく途切れた雨は、どうやら小休止をとっていただけだったらしい。明るいグレイのしきつめられた空が何の前触れもなく大粒の水滴を吐き出し始めたので、手近な老樹の影に駆け込んだ。 服のすそをおざなりに絞りつつ、空模様をうかがうが、当分はやみそうにない。ため息をのみこんであたりを見回せば、忍び寄り煙る強い香りに気づいた。濃い紫と桃色の間の色を持つ花からだ。名前といえば沈丁花。頭の芯をゆらして薫る。 人によっては好き嫌いの激しいその甘さを、しかし佐助は決して嫌いでなかった。服や身体ににおいがつくのはいただけないがそれはそれだ。 ――――御身に栄光あれ、 花言葉は確かそんなだった。柔いつぼみのひと枝を手折って手の中で転がす。帰りを待っているだろう主に持っていこうかと、少し考えてやっぱりやめた。一時でも主の歓心をよそへ向けるなんて。我知らずうすく笑う。前髪の先からしたたるしずくが頬をつたってあごから落ちて、まるで泣いているみたいだとふと思う。 そのままつぼみを握りつぶした。 腐っていた。 20070503 |