飲み過ぎたりとか完徹だとか、不摂生した翌朝の朝日は黄色く見えるというらしい。俺は今まさに二日酔いでよろよろ起きてきたわけだけど、正直、あんまり黄色いとは思わないな。二日酔いの朝の朝日って、色がどうこうよりまず痛覚だ。
そんなこんなでずんと痛重い頭を抱え、キッチンに入ると、元親がひらりと手を振ってよこした。
「おはようさん。早いな。昨日あんだけべろべろだったのに」
「あぁ…なんか…」
「コーヒー飲む?」
「ん、thanks…」
マグを受け取りコーヒーを、
「…ッぐふぅっ!?」
口にした瞬間噴きかけた。つられて胃の方で波打つ酸っぱかったり苦かったりするものまでが逆流しかけて死ぬかと思った。首の後ろでダイナマイトか何か爆発した気分だ。
「なっ…ん、だ、この…甘!ぬるっ!酸っぱ!不味ッ!!」
「だろうなあ。インスタント一杯分に砂糖二杯とミルク2つを蛇口直送のお湯で淹れたやつだからな」
それは多分淹れたって言わない。入れただけだ。
「な、何…そ…、…っ聞いただけで気持ち悪くなってきた…」
「何で? うーん、なんで、ねえ…まあ、意趣返し…かな」
元親は淡々と腕を組む。
「昨日はずいぶん楽しかったみたいだな。なんで楽しかったんだったかな?おまえ誕生日だからってバイト仲間がしこたま奢ってくれたんだよな?だけど俺も言ったよな?誕生日だしどっか食べに行こう、だから早く帰ってこいよって、言ってたよな?」
「………あっ。」
首の後ろを再び何か走っていった。さっきのコーヒーをダイナマイトとしたら、なんだろう、今度のこれは水爆だ。思わずコーヒーを一口飲みこむ。不味い。
「帰るなり爆睡したおまえの横でさあ…俺1時間くらい考えてたよ。これ屋上まで引きずってって逆さに吊しちゃだめかなって。気づいたらいつのまにか正座で考えてたのは我ながらちょっと怖かったけど」
ちょっとどころじゃないです。
「で…どうしてくれようって思ってたんだけど。でも考えるとさ、かわいい女の子ならともかく、俺みたいのが誕生日がどうしたって騒ぐのは、なあ。それにそもそもおまえの誕生日なんだし、寛大な心で許すべきかな、とも…けど、そしたら怒りの行き場がなくなるし。そんで、とりあえず、コーヒー作って起きるのまってた。おいそれちゃんと飲めよ」
「あっ、はい。」
言われるままにまた一口。不味い。
「うん…とりあえず今日はバイト休め。昨日できなかった分祝いたいし。二日酔い酷そうだけど、それくらいつきあってくれるよな」
元親はにっこり微笑む。
「ケーキバイキングとか」
あっやっぱまだすごい怒ってる。
「まあ、何はともあれ、まずはそれだ。そのコーヒー全部飲みなさい」
「ハイ、飲みます。」
また一口。何度飲んでも不味い。
「それ飲み終わったら…まあ、話し合おうか。色々と。 な?」



そんなこんなで俺は今まずいコーヒーを飲んでいる。元親はじっと俺を見る。俺はコーヒーを飲む。死ぬほど不味い。不味いのだが、飲み終えるのがとても怖い。できればこのまま永遠に飲み続けていたい感じだ。でもやっぱり不味いわけで。でも怖いわけで。
元親はじっと俺を見る。俺はまずさをかみしめる。残りはあと約3センチ、この微妙に人肌で酸味がうすっぺらくかつ自己主張が激しく、甘ったるいのに脂の味しかしないコーヒーを飲み終えちまったら…ああああ恐ろしい! 残る猶予は2.5センチ。あーあ、突然奇跡が起こって元親の機嫌が直らねーかな。それかコーヒーが超絶美味にならねえかな。それか誕生日が来週くらいになんねーかな。
ささやかな期待をかけたコーヒーは、それでもやっぱりまずかった。













20080905
このコーヒーは、夜中に飲もうとしたらポットにお湯がなくて水道のお湯で作ったコーヒー、カラオケのただでさえうっすい紅茶に氷を大量投下した上でフレッシュ入れたら脂の味しかしなくなったアイスティー、という実体験にもとづいています。作者の行動は当人にもわりとかなり意味が不明です