晩夏がうすぐらい部屋のそこここにわだかまって、ねっとりとけだるく漂っていた。
粘性の空気をはらうようにまたたいて焦点のゆがんだ目をこらす。熟しきった季節がほろほろとほどけてゆく中で、狭苦しい一室には夏の気配が満ちみちていた。ほこりっぽい往路、煮つまった緑、盛りの花、とろける雲、騒々しいほどの青をたたえた海、空、風のにおい。甘やかな汗。暁にまどろみとともに聴いたコオロギのささやきはすでになく、絶叫に近しいせみしぐれが耳朶を打つ。
手慰みに頭の下を通って延びる腕の先の手のひらに自分のそれを重ねてみた。甲をなぞって、指をからめて、くっつけて、離して、血管をたどり、手首を包み、つめを愛撫し指先をかすめて、また、くっつけて。つないだ手を見つめて、思い出したように、あつい、と、つぶやきを零す。

「そりゃ昼間っからこんなことしてりゃあな」
「…離れる?」
「Ah…なかなかいいideaだ」

とたんに視界がぐるりと回転して、気づいたときには腕の中。汗でべたつく胸と額をぴったりくっつける。もちろん手のひらもくっついたまま、5本の指は絡んだままで、ああ、酸素とか、空気とか。邪魔だ、な。

「はは、超あっつい」
「まぁ俺とアンタが一緒ならどこだってあつい」

あつあつだからな、俺ら、自信満々で言うのに、それは寒いと返してやった。ついでにお寒い唇にかみついた。舌をからめたままでふたりとも笑い出したから息ができなくてすこし苦しい。かまうものか、二人の間の無粋な空気なんてぜんぶ蒸発しちまえばいい。可能なくらい身体はあつい。




夏の終わりはいまだ遠く、すべてはゆるやかにゆらぐ蜃気楼の中の白昼夢だ。













20071007
えろさを目指して玉★砕